2025年1月4日(土)その2

アントニー・バークリー『最上階の殺人』を読んだ。バークリーは以前にも何冊か読んでいて、特に『レイトン・コートの謎』がお気に入り。少し前に『ピカデリーの殺人』を少し読んで放置しているにも関わらず、新年の読書一発目ということで、『最上階の殺人』と『地下室の殺人』を買ったのだった。

 探偵による一人称小説のため、全編にわたって探偵であるシェリンガムの思考が全て記載されている。読み進めると容疑者へのアプローチ方法から棚上げした問題等かなりチグハグのように見える。本当に事件を解決できるのか?と思わせながらも独自の方法で犯人に迫る姿が、なぜこんなにも魅力的に思えてしまうのだろうか。その最高到達点がラストのシーンなわけである。

 シェリンガムの探偵小説的なアプローチとモーズビー警部の現実的な捜査のアプローチが一瞬対峙するシーンがラストに効いていて、複雑なことをサラッとこなしているにも関わらず、自己批評的でありながらユーモアを持ち合わせるという素晴らしい探偵小説だった。

「ぼく、何かまずいこと言った?」ロジャーはたずねた。「いえいえ、とんでもない」ビーチが安心させるように言った。「メリマンとわたしはただ、あなたは探偵小説のたぐいを大量に読んでおられるのだろうなと思っただけで。どうぞお気になさらず」(アントニー・バークリー 『最上階の殺人』藤村裕美(訳)より)